ふと、あの春の日を

うっすらと

そして 緩やかに

けれど

奇妙な確かさで

かたちを成す



息を潜めて見まもっていた暮れてゆく時

やがてかたちを成したそれは

春の時間を連れて

無口なままで旅立った



まんじりと

ただ まんじりと

待ち続けたあの春が

まためぐる

けっして暇ではないのだけれど

ほんのすこし怠惰で

うっすらと静かな水曜日


冷たい風はもうしばらくと駄々をこねる



鈍い熱さの漂う箱のなかで

ふくらんだ鳥があくびをする



やわらかな月は　はじまったばかり

文字の感触

ヴィオラ　と　ビオラ


ヴィオラがすき
やわらかい中音域が感じられるから

でも
ビオラもすき
楽器じゃないみたいだけど
きっぱりした意思が見えてくる気がするから


ヴァイオリン

バイオリン

これだと
どうだろう

じっと見詰めていたら


薬の名前に見えてきた

滲むように

ほんのり欠けた月が

川面を金色に照らしている
ちらちらと光る波

霞む鈍色の夜空を
ビロードの暗幕に変えながら

ゆったりと

のぼってゆく

それはしっくりと馴染む

雨の日は

ゆっくりと時間がすぎる

あれと
これと

そして これも

なんて欲張ってみるのに

いつの間にか

どれも

さらり ひらり

時間は停まったように流れて

いちにちは

雨の速度で

閉じられてゆく

ほら また

ひとつ

開く回路


前触れも予感もなにもなく
唐突にひらく

深い時間

密かな音をさせて

またひとつ


回路が開く


＞おてがるに君を愛するためならば国道沿いに売店が在る／かのん

雨をみるのは

叩きつける雨の音
　

窓をぬらす雨粒

曇り硝子で見えない景色


音だけを見ている空


水溜りをばしゃばしゃ歩く連想

歪んだ笑顔


赤い傘の背中


ゆっくりと冷えてゆく雨模様の部屋

数え切れない雨粒をてのひらに包む


午後


＞追憶はみどりの雨を軋ませて手のひらをゆくほうき星たれ／かのん

暮れる 明ける

台風が過ぎていった夕暮れ

まだ風が強くて

細い廊下の突き当たりで　窓が紫に滲む

ドアを開けたら残りわずかな夕焼け




台風一過

分厚く霞んだ朝の空に　浮かんだ

あかい陽

季節が移りはじめた証の色

明日はどこかで

降り出した雨は
止んだらしい

気だるげに
ノソリと月があがった

閉じられた窓に阻まれて
気づけずに居る

たしかな

夜の空気


月は今朝も
てっぺんに居た

帰り道

ぼんやりと満月てまえに居る月

見上げても心もとなく　蚊帳の向うにいるようで


ばたばたと転がる蝉

短い命だからと思うのだけれど

あの音だけはどうしても苦手


＞ヂヂヂヂと手足を翅を震わせる爆弾のようなあなたがきらい／かのん